ボランティア活動inベトナム

もう一つの診療室(ベトナムボランティア)

診療室とは違った歯科貢献。
しかし、平成23年からベトナムボランティアへ参加しようと決めて、毎年スタッフを連れて参加しています。
私の所属するチームをご紹介します。

歯科ネットワーク岡山から世界へ
Dentist Network from Okayama to the World 

ベトナムには1万人余りとも言われるストリートチルドレンがいますが、経済的な理由や社会的理由(移住による、出生証明書や住民票の不備、貧困)により学校にも通えず、不安定な路上で困難な生活を余儀なくされています。 

そのような子供達は、市内のボランティア施設、NPO、寺院などに保護され、住まいや食事を与えられ、授業を受けたり、一定年齢まで職業訓練を受けたりしていますが、彼らは歯科医師不足の現状の中、口腔の健康管理は不十分で生活指導も徹底されていません。 

そもそも、子どもたちを世話する人々の口腔に関する意識は低く、予防的概念が乏しく、その為口腔状況が悲惨で、十分な歯科治療を受けることができないのが実情です。 

我々はそのようなストリートチルドレンや障害児の成長・発育・自立を歯科を通して支援するため、現地のNPOと協力して無料の歯科治療ボランティアを行っています。

この組織の活動目標を紹介します。

1.感謝の気持ちを大切に歯科医療従事者と共に被益者にも「ありがとう」の言葉を普及させる

2.活動地域においては,人間関係を重視し活動の継続性とコミュニティーへの公共性を被益者と共に求める

3.国際貢献の体験実習を図りながら,歯科予防活動の普及と啓蒙を実施

4.歯科治療の実践や治療技術の提供を通して,地域との交流を図る

この素晴らしい志に賛同して、私が参加したボランティア活動の様子を紹介します。 

活動としては、2日間でホーチミン市にあるFFSC(ストリートチルドレン収容施設)で、150人~200人の子供達の歯科健診および治療や予防教育を行います。 

活動初日 早朝にホテルを出発し、タクシーである施設へ向かいます。施設到着後は、施設の方と簡単な挨拶を交わしたら、準備スタート。 

初日の予定は、午前中に口腔内検診と写真撮影、そしてフッ素塗布。
午後からは、治療が必要と判断された子供たちの治療と予防活動を行います。
検診チーム、写真チーム、フッ素チーム等の各部署に分かれて、9時からスタート。
打合せ通りに、手際よく担当業務を開始します。

そうそう、この活動には忘れてはならない重要な人たちがいます。
日本語のできる現地ボランティアの方や、英語の話せる大学生の人達です。
毎回5人から10人のボランティアの方が我々のサポートをしてくれています。
この人たちがいなければ、私たちの活動は絶対にスムースには運びません。 
当日も、各部署に割り振られ、通訳や、器具の消毒をしてくれました。 

まずは、現地ボランティアが子供たちのカルテを作成してくれます。
ベトナム語の分からない私達には、名前が似ていて、よくわかりません。

そして、次に口腔内検診です。
これは、日本で行っている学校健診と大きな違いはありません。
しかし、違う所もあります。
海外でのボランティア活動では、継続的な歯科治療はありません。
保存不可能な歯の抜歯と何としても残したい歯の充填処置が行われます。
しかし、それも何本も同時に行うことはできないので、ひとり1本か2本のみとなります。
それを決定するのが、検診する人の重要な役割となります。

総監督を任せられた私は午後からの処置可能人数を考え、
症状の重そうな人を中心に治療をする人を選出していきます。 

齲蝕多発で治療のしようがない人や、初期虫歯の子供は、齲蝕抑制薬剤の塗布。
問題のない人は、フッ素塗布。

しかし、神経まで進んでいる虫歯は、残念ながら放置。
何とか治療できる人は充填処置。
抜いておいた方が良い人は抜歯。

こんな感じで、振り分けをし、治療計画書に記入していきます。 
検診が終わると、すべての子供の口腔内写真撮影です。
記録を残して、後でデーター分析をすることは、非常に重要ですが、大変な作業となります。

後日、カルテ情報と口腔内写真は、岡山大学歯学部の高柴教授の講座において整理されます。

その後は、子供たちはお土産をもらって、終了となります。
その際、治療必要と判定された子供たちは、午後からも来るように指示されます。

一番の問題は、クーラーがないことです。本当に暑さとの戦いになります。
汗かきの私にとって、ベトナムのこの環境は大変でした。
水を何本も飲みながら、汗びっしょりでの活動となりました。
たぶん、周辺にオヤジ臭をまき散らしていたと思います。 

1日目の活動内容を紹介します。 
参加当初と現在を比べると、かなりキレイな口腔内になってきたように思います。
ですが、まだまだ満足できるレベルではありません。

最初に検診した10歳から14歳ぐらいの子供たちは、永久歯にほとんど生え変わっていたため、虫歯は少なく、比較的問題はなさそうでした。

それでも中には、6歳臼歯に大きな穴が開き、抜く以外に方法がない状況の子供達もいました。

しかし、低年齢児になると状況は一変し、乳歯の奥歯はほとんど虫歯という子供たちが多数いました。
家庭環境や社会環境に大きな問題があることは、一目瞭然でした。

考えてみれば、だからこそ我々歯科ボランティアの存在意味があるわけです。
驚いている暇などありません。

治療は、保存不可能な歯の抜歯チームと保存可能な歯の治療チームに分かれました。
午前中に治療勧告をしていた子供たちのうち、実際に来院した子は、半数ぐらいでした。

抜歯が怖くて来なかった子供や、治療の必要性を感じなかった子供達が多かったのだと思います。
時間不足やコミュニケーションの問題から、十分な状況説明や治療の重要性を伝えきれなかったことが反省材料です。 

治療チームではプラスチックのテーブルを連ね、固定した上に、ビニールシートを引いて、簡単な診療台を作ります。
その横に、訪問診療用のポータブルユニットを設置し、補助テーブルを置いたら、準備完了です。

私たちが行う治療は、何とか残していきたい歯の充填処置です。
十分な機材や道具もないため、出来るだけ手作業で虫歯の部分を除去していきます。

虫歯を完全に除去できたときは、レジンと呼ばれる白くて固い材料で治療。
虫歯を完全に除去できなかったときは、フッ素を含み虫歯抑制効果があるグラスアイオノマーセメントで充填します。
虫歯除去中に神経がのぞいた場合は、残念ながら放置しました。

一度きりで、治療後にトラブルを出さない治療が必要とされます。
日本の診療室のように、色々な機械や道具がそろっており、ありとあらゆる材料を自由に使えるわけではありません。
歯科ボランティア治療の難しさを感じた瞬間でした。

治療は、予想していたより早く進み(子供たちがあまり来なかったため)、予定より早めに終了しました。
感染予防の観点から、長袖のエプロン、防止、マスクをつけての診療となり、汗だくとなりました。 

抜歯チームでは、慣れない抜歯に悪戦苦闘しながらも最後までやりきました。
抜く歯が多いことは、非常に残念ですが致し方ないのも事実です。

施設で、手作りの昼食をごちそうになり、昼の部開始です。
昼からは、スタッフによるコツコツと準備してきた予防活動を行います。
毎回工夫をこらした内容ばかりで現地の子供達と一緒に楽しくお勉強します。そしてそれを同時通訳で伝えていきます。

どこまで伝わったのか分かりませんが、こういった予防活動が一番重要だと思います。
いかに楽しく、そして分かりやすく伝えるかがポイントです。

意欲的に参加してくれた子供たちには、プレゼントを渡しました。
当然、大盛り上がりの会となり、こうして2日目の活動は終了しました。

チーム全員が大変充実した時間を過ごし、心地よい疲労感を得る事ができました。

こうして、我々の2日間にわたるボランティア活動は終了しました。

参加する前は、私の歯科ボランティアに対するイメージは、あまり良いものではありませんでした。

参加した人の話を聞くと、一度で処置を終わらせる必要から、ほとんどの処置が抜歯だという事を聞いていたからです。
抜歯が全て悪いというわけではありませんが、数年に一度、一本の歯を抜いてもらったとしても、それがベトナムの子供達の健康にとって、どれほどの意味があるのでしょうか。

C3以上の虫歯は、放置か抜歯という治療方針は、我々歯科医師にとっては、何とも辛いことです。

本当に必要なのは、集団を対象にした予防教育だと思います。 
DNOWの活動の目的を聞き、今までの私がイメージしていたボランティア活動とは少し違っている気がしたことが、今回の参加の決め手となりました。

抜歯以外に充填や、予防活動、口腔内写真撮影やカルテ作成によるデーター管理、見えないところで大変な努力をしている事には驚きました。 

まだまだ、資金、人手、設備、時間の不足、我々のボランティアスタッフの経験や技術不足、日本人とベトナム人との国民性や考え方の違い、現地スタッフの協力度の不足等、課題は山積みのようです。

しかし、現地の子供達の為に何かしたいという気持ちを強く感じました。

ボランティア活動を終える度に「また戻ってきたい」と思わせてくれます。
これも、DNOWを支える多くのスタッフの方の努力によるものだと思います。 

この活動を通じて、私自身は歯科医師として、また社会人として大きく成長できる気がします。
一人一人の出来ることには限りがあり、どれほどベトナムの子供たちの役に立っているのかはわかりません。
しかし、決してあきらめずに継続して行うことこそ重要だと考えます。

院長 宇治郷好彦